• The企画エルサーチ株式会社

「決め手は、青森県産。」県産品マーチャンダイジング支援事業・食料産業クラスター展開事業

●● 平成19年度「売れる商品づくり」成果発表会 ●●

●日 時:2008年2月19日(火)
          10:00~16:00
●会 場:ラ・プラス青い森(青森市)

主催:青森県/(社)青森県ふるさと食品振興協会

青森県の「県産品マーチャンダイジング支援事業」を通して、
「売れる商品づくり」に取り組んだ県内の事業者による成果発表会のようすをレポートします。

「決め手は、青森県産。」
マーチャンダイジング支援事業とは

 青森県が展開する「攻めの農林水産業総合販売プロジェクト」の重点事業の1つで、マーケティングや消費者ニーズを意識した商品の企画から開発・改良、販路開拓までを行なう「売れる商品づくり」を支援する事業です。
 The企画エルサーチでは、蒔苗代表が「売れる商品づくり」食品委員会の委員として参加。県からの委託を受け、消費者の視点でさまざまな角度から商品を検討する消費者評価(県産加工品の試食)を青森で実施。商品の開発・改良に向けて、消費者の意見を集約し提案してきました。

基調講演(1)アートディレクターの視点から

■■ デザインが伝える商品力とブランドイメージ

講師:アートディレクター  古平 正義 氏

 パッケージデザイン、展覧会のポスターやファッションピルのデザイン開発、ブックデザインなど、これまで自身が携わってきたさまざまな仕事を例に、デザインに関わる立場から、商品づくりとデザインの関係について語りました。
 「パティスリーKIHACHI」の例では、「素材を大切にする」精神を表現するため、手作り感や温かみを感じる紙や印刷にこだわったこと、「ワコール」の仕事では、さまざまなブランド展開と顧客の多様な年齢層に対応できるよう、色のバリエーションを豊富にしたことなど、それぞれの商品の特徴、場所、性質、顧客の年齢層や好みなどを総合的にとらえてデザインを考えていく手法を説明しました。
  また、ちょっとした「遊び」が買い手の気持ちを引きつける例や、紙や印刷の工夫で制作コストを抑えた裏話(?)に、参加者はなるほどという表情になっていました。

 「デザインとは、商品が目指す方向を伝えるもの。全体のイメージとしてデザインをとらえることが重要」「どんな商品かをじっくり考えて条件を絞り込んでいくと、自然にデザインが決まってくる」と話し、「“買ってもらおう”(売ろう/売りたい)という意識が強すぎると、デザイン過剰になり、商品が見えなくなってしまう」「商品の個性を大切にすることが、結果的に“売れる”ことにつながる」「中身あってのデザイン」というお話に、参加者にもデザインと商品づくりとの関係が見えてきたようです。
  第一線で活躍するアートディレクターの仕事の数々をご本人の解説つきで見ることのできた、とても贅沢な講演でした。

【古平 正義氏のプロフィール】
1970年大阪生まれ。2001年FLAME設立。横浜美術館、水戸芸術館、森美術館などの展覧会ポスター、写真集、ブックデザイン、企業CI・ロゴタイプなどの他、展覧会の会場構成、建築のサイン計画、出版の企画などを手がける。

デザインセミナー

■■ デザイナー活用について

講師:あおもりデザイン協会  伊藤 匡 氏

 「記憶に残る年賀状を作る」という身近な作業を切り口に、商品づくりにおけるデザインの意味やデザイナーの役割を考えました。
 「相手のわかっている年賀状とはちがって、広告デザインの場合は、まず相手を知るところから始めなくてはならない」と、デザインの面でも商品のターゲットの想定に時間をかけることの大切さを話し、漠然とデザインを依頼するのでなく、商品とじっくり向き合って「何をしたいか、どうしたいのか」という情報を整理してデザイナーに伝えることが重要だと話しました。
 「他商品との差別化は必要だが、商品のイメージと離れすぎると逆効果」「思いつきやひらめきだけでなく、市場の分析・調査を重ね、どうやって売っていくか、どのように働きかけるかというコンセプトの設計を行なうことが大切」と、古平さんの基調講演を補強する内容に、参加者もしっかり腑に落ちたようです。県内の身近な商品を紹介した「デザイナー活用事例集」を見ながらの説明には、興味深そうに手元の資料を繰る姿が目立ちました。
 また、「デザインの効果検証やデザイン管理も重要」「著作権・使用権などデザインに関わる権利についてきちんと理解し、契約してほしい」というお話には、神妙な表情で耳を傾けていました。

事業者・商品紹介

「決め手は、青森県産。」で
おなじみの決め手くんも応援

 隣り合う会場では、平成17~19年度に「売れる可能性のある商品」に選定された商品が多数展示され、休憩時間には試食も行なわれるとあって、参加者の多くが足を運びました。生産者や製造者は多くの人にPRするチャンスとあって、熱心に商品の説明をし、試食をすすめていました。
 おいしさを味わいながら、商品を手にとり、ラベルや表示を見て製造者に質問したり、参加者どうし情報交換している姿も会場のあちこちに見られました。

 会場内には、基調講演を行なった古平正義さんの作品を紹介するコーナーや、商品づくり・デザインに関する無料相談コーナーも設けられ、何人もの参加者が足を止めて相談していました。

基調講演(2)バイヤーの視点から

■■ 「売れる商品開発」の視点

講師:食のデザイン  西原 昌男 氏

 最初に「あまりにも他の商品を見ていない。今、市場で何が売れているか、それがどのようにして作られているかを知らない」と、多くの生産者・製造者の現状をズバリと指摘。参加者の背すじが思わずピンと伸びました。
 「マーケットが多様化し、消費者が自分に合ったものを、自分に合う方法で買う時代。自分の商品を、どのマーケットで、どのようにして販売するかを考えなくてはならない」とターゲットを明確にすることの重要性について話し、市場や消費者の動向を知る手がかりとして「機会あるごとに出かけたり、インターネットを見たりして、努力してほしい」と強く要望しました。

 講演では、現在の消費者動向をキーワードで紹介。価格に関係なく気に入れば買う層の存在や、家族構成の変化による多品目少量消費とコンビニのシェア拡大の可能性などにふれ、「自分の生活レベルの中だけで商品開発を考えてはいけない」と指摘しました。
  そして「食の安全」を揺るがす事件が続発している今、仕入れ責任者であるバイヤーの安全性に対するチェックは厳しく、生産環境の整備が取り引きの最重要課題であると述べ、具体的なチェック項目を挙げながら、従業員教育を含めたバックヤード整備の大切さを強調。参加者は熱心にメモをとりながら聞き入っていました。

  さらに、商品開発の流れを説明しながら、消費者のニーズを徹底的に知り、消費者の視点で商品づくりをすること、競合商品の力を知ること、商品の開発・育成・物流コストを含めた予算化を必ず行なうことなど、重要なポイントを確認しました。
 最後に「青森県ほど取り組みの具体的な県は他にない。間違いなくトップを走っているから、がんばってください」とエールを送って、約1時間の講演を終えました。
 事業者には耳の痛い指摘もありましたが、中身の濃いお話と大きな身ぶりでパワフルに語る西原さんの姿に引き込まれて、時間があっという間に過ぎていました。

【西原 昌男氏のプロフィール】
首都圏の食品スーパーの元バイヤー。全国の産地を自ら訪れ、独自の仕入れルートを開拓するほか、消費者と生産者をつなぐ産地見学ツアーなどの活動にも取り組んできた。平成16年に独立、現在は青森県をはじめ都道府県の商品開発アドバイザーとして活躍。
■ 青森県産品 コーディネイト機能研究会委員

事業成果発表

 つづいて、平成19年度に商品づくりに取り組んだ事業者による事例発表が行なわれました。
 発表したのは、一次産品、加工食品、工芸品の各部門から選ばれた4事業者で、商品開発に至る経緯や支援事業応募のきっかけ、商品への思い、また、商品の課題・克服・改善にどのように取り組んだかについて発表しました。
 各事業者の発表の後には、「売れる商品づくり委員会」のメンバーがコメンテーターとして、意見を述べました。

 まず、一次産品部門から「北緯40度のハーブ」について、大西ハーブ農園・大西正雄さんが発表しました。生産者として「ハーブを育てることにエネルギーを注いできたが、作ったものをどう売ればよいかわからない」と応募のきっかけを話し、鮮度を保ちつつ、ゴミの少ないパッケージに変更したことなど改良点を報告。販売するハーブの中身が常に変わる商品特性から「ホームページを通じて、ハーブの名前や食べ方を紹介していきたい」と今後の課題を挙げました。

 大西さんの発表に続いて、 The企画エルサーチの蒔苗代表がコメント。パッケージデザインや販売サイズ見直しなどの改良点を「買いやすいサイズになったことで普及につながるはず」と評価し、大西さんのハーブの美しさに感動したという自身の経験から、「売れる」ためには「美」も大切な要素だと述べました、
  また、完全無農薬・無化学肥料でハーブを育てる大西さんの生産姿勢を紹介し、「商品の信頼性は抜群。その良さをもっと伝える工夫が必要」と課題を指摘、「ホームページを充実させて素材の情報を取り出せるようになれば、商品自体の情報発信力が高まる」と、将来への期待を語りました。

 続いて、加工食品部門から2名、工芸品部門から1名が発表。コメンテーターからは、地域の資源を生かした商品づくりのカギとして、広域かつ重層的な連携の重要性、商品管理システム確立の大切さ、支援事業の活用、商品育成プログラムの必要性などが挙げられました。

▼ 事例発表の行なわれた商品

一次産品部門
大西ハーブ農園
「北緯40度のハーブ」
加工食品部門
(有)みちのくボヌール
「フランス鴨の加工品」
加工食品部門
(株)中村醸造元
「大間マグロ醤油」
工芸品部門
津軽塗伝統工芸士会
「玄関のちょい掛け」

 まとめとして、「売れる商品づくり」委員会から、デザイン・消費者評価・商品開発について意見が出されました。
 【デザイン】伊藤匡さんが、「商品の名前づくり」の大切さを子どもの命名にたとえて話し、今後の課題として、先行商品との重複やデザイン制作者との権利関係をきちんと確認することを挙げました。
 【消費者評価】エルサーチの蒔苗代表が「消費者評価のアドバイスを商品にどう反映させるか、経営者の決断が非常に大切」と述べ、「一度評価した商品を消費者は見守り、ずっと気にかけている」と、評価者を商品のファンとして取り込んでいく可能性を示唆しました。
 【商品開発】西原昌男さんから「青森県には、まだまだ宝物がいっぱいある。今、自分の持っている素材に、県内の技術や考え方をどうプラスして付加価値を高めていくか考えてほしい」と再度エールが送られました。
 最後に、コーディネーターを務めた新倉勇さんが「お客さまが何を求めているかを知り、技術・知識・知恵といった自社の経営資源を生かし、連携して商品づくりを進めてください」と述べて、閉会しました。
 長時間にわたる発表会でしたが、約180人の参加者は充実した表情で会場を後にしていました。

reported by Yamamoto

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