• The企画エルサーチ株式会社

■日 時:2008年3月26日(水)
     13:30~16:00
■場 所:プラザマリュウ五所川原

主催:青森県西北地域県民局
企画・運営:The企画エルサーチ
協力:津軽半島観光コンシェルジュの会「めごネット」


地元の市町村や産業団体、NPO法人等と連携し、
「地域らしさ」を取り入れた着地型観光の育成に取り組んでいる県西北地域県民局の主催で、
地域の魅力や恵まれた観光資源を再発見し、今後の奥津軽観光の可能性を探ろうと、
初めての観光フォーラムが開催されました。

地域一体となって観光資源を活かす取り組みを

 雨模様のあいにくのお天気でしたが、西北五地域で観光業に携わる人を中心に約100名が集まって開会しました。
 初めに、県西北地域県民局長の神豊勝さんが、恵まれた観光資源を活かす取り組みを地域一体となって行なうため「つがる西北五活性化推進協議会」を設立した経緯を説明、「今日は先進的な取り組みをしている方々のお話を聞いて、ヒントをひとつでも多く見つけてほしい」とあいさつしました。

観光カリスマが語る未来へのヒント

■■ 北の観光カリスマ未来談義

秋田県観光カリスマ 佐藤和志さん
青森県観光カリスマ 角田 周さん

 プログラムの第一部は、「北の観光カリスマ未来談義」と題して、観光カリスマとして北東北の観光をリードする佐藤和志さんと角田周さんが対談しました。
 佐藤和志さんは、25年前に乳頭温泉郷・鶴の湯温泉の経営を引き継ぎ、山中の湯治場だった鶴の湯温泉を老若男女に「一度は行ってみたい秘湯」といわれるまでに育て上げました。「その秘訣は?」と角田さんに問われ、「新幹線開業に伴って他の温泉地が観光化していく中で、乳頭温泉は取り残されてしまったが、それならば徹底的に古いものを残そうとこだわって取り組んできたことが、現在につながっている」と答えました。
 「古さ」を守るため、建物にはアルミサッシやクロス張り、集成材は一切使わないこと、自分たちの手で石垣を組んだという護岸工事や電線の地中化など、周囲の自然を生かしたインフラ整備にいち早く取り組んだことが、いま結実しているというお話に、参加者は熱心に耳を傾けていました。

 鶴の湯温泉の本陣には、客室にテレビやコンセントはなく、携帯電話も通じません。建物が古いため、すきま風も入ります。佐藤さんは「“規格外”のものが少ない今の世の中で、鶴の湯は貴重な存在。古さや不便さをあえて“売り”にすることが生き残りの道」「“何もない”ことも、やり方によってはインパクトを与えるものになる」「建物にも食事にも、田沢湖周辺のものを使っているからこそ“秋田の露天風呂”とイメージしてもらえる。お金をかけることより、そこにあるものに気づき、生かすことが大切」と語る佐藤さんの口調は柔らかですが、秘めた熱さと実行力がじわじわと伝わってきました。

  佐藤さんのお話に「鶴の湯温泉に行ってから話を聞けばよかった~」と角田さん。同じ思いで聞いていた参加者も多かったのではないでしょうか。奥津軽の未来を開く、たくさんのヒントがちりばめられたお話でした。
 苦労も多かった25年間をふりかえり、「年月というのは大変なものだと実感している。がんばっていれば、いつか必ず日が当たります」という佐藤さんの言葉は、聞くものの胸に深くしみわたりました。

佐藤和志さん
1947年秋田県由利郡矢島町生まれ。製紙会社勤務、乳頭温泉郷・大釜温泉の経営を経て、1983年より鶴の湯温泉を経営。日本秘湯を守る会副会長。田沢湖町観光協会会長。

角田 周さん
1953年金木町生まれ。地吹雪体験ツアー、ストーブ列車車内サービスなど、雪国の日常を「非日常体験」として提供するイベントを多数企画し、全国から観光客を集める。津軽半島観光ネットワーク代表。

奥津軽観光の可能性を探る

■■ パネルディスカッション

コーディネーター:津軽地吹雪会代表 角田 周さん   
パネリスト:(有)鶴の湯温泉代表取締役 佐藤和志さん 
      (株)三沢奥入瀬観光総支配人 佐藤大介さん
      (企)あっぷるぴゅあ代表 柳沢 泉さん
  

 第2部は、「奥津軽観光の可能性を探る」をテーマに、積極的な取り組みを行なっているパネリスト3名の意見を聞きました。
 最初に、第一部から続く形で、パネリストたちの現在の取り組みについて聞きました。
 古牧温泉・奥入瀬渓流グランドホテルの再生に取り組む佐藤大介さんは、「とことん『青森らしさ』を追求すること」。温泉には「熱湯」「ぬる湯」、地元の素材や食べ方を取り入れた食事、青森ねぶた・弘前ねぷた・八戸三社大祭の大型山車を飾り、従業員もなるべく方言を使うようにするなど、館内すべてで「青森らしさ」を体感できる工夫をしています。南部・津軽といった地域にこだわらず、訪れる人の視点で「青森らしさ」とは何かを考えることも大切では、と述べました。

  結婚を機に青森県に移住したという柳沢泉さんは、都会で多忙な毎日に疲れていたとき、青森の自然にふれてホッとしたといい、「青森のおいしいものに惹かれて移り住んで来ました」と自己紹介。青森の旬の野菜や果物の販売を行なう一方で、将来につないでいくために、3年前からは若い農業者の育成も進めています。「すぐに効果が出なくても、長い目で見て地道に取り組むことが必要」と話しました。

佐藤大介さん
早稲田大学理工学部建築学科を卒業後、総合商社勤務を経て星野リゾートに入社。軽井沢のホテルを経て、古牧温泉・奥入瀬渓流グランドホテルの総支配人として再生に取り組み中。

柳沢 泉さん
証券会社勤務の後、青森県に移住。種苗販売会社経営の傍ら、企業組合あっぷるぴゅあを設立、青森の旬の野菜や果物の販売、食育活動を通じてコミュニティビジネスを展開している。

■ 奥津軽観光の可能性~埋もれている宝物

 この日のテーマ「奥津軽観光の可能性」について尋ねると、佐藤和志さんは「他県では味わえない、青森だけのものを」と、「りんご畑の中のレストラン」を提案。柳沢さんの提案は「コテコテの津軽弁でガイド」。地元の人にはマイナス面ととらえられえがちな方言ですが、「わからない言葉は大きな資源。どんどん使わないともったいない」そうです。

 佐藤大介さんは、「地元の人が気づいていない、よい素材がたくさん埋もれている」と言い、津軽半島沿岸の風景を例に挙げました。一方で、「よいものも大規模に観光化した途端に“らしさ”が失われる」と述べ、「規模は小さくても50年100年続いていくものを大切にするべき」と話しました。
 いずれの意見も、地元にいると見慣れすぎて、気づかないことばかり。視点を変えることで眠っている宝物が見えてくる可能性を示しました。

■ 奥津軽観光の課題

 奥津軽観光を魅力あるものにするための課題について聞くと…
 「お金をかけた立派な建物などは必要ない。まずは“自分の範囲”で事業を起こし取り組んでいくことが大切」(佐藤和志さん)、「地元のよさに気づくには、他を見に行くこと。他を見ることで、“うちの方がよい”とわかり、それが大きな財産になる」(佐藤大介さん)、「生まれ育った土地のことは、よく見えないもの。よそ者や若い人の意見を聞き、取り入れることで新しい風が生まれる」(柳沢さん)という意見が出ました。

■ 質疑応答から

 質疑応答では、「食へのこだわり」「新幹線からの2次交通」についての質問が出ました。
 「食」について、佐藤和志さんは「こだわりはお米と、地元の生の素材」と言い、それがお客さんにとって新鮮な味わいになると述べました。
 「2次交通」については、2人の佐藤さんは経営者の立場から現状や今後の計画を述べ、柳沢さんは「インターネットで時刻表などにいかにアクセスできるか」と、観光の入口としてのインターネットの役割の重要性にふれ、「タクシーの運転手さんの印象が旅の印象を決める」と、旅行の達人ならではの意見も出ました。

■ 奥津軽へのエール

 最後に、3人のパネリストから一言ずつ。
 「奥津軽には、日本の原風景がある。“奥座敷”という意識を大切に、不便さも商品に。小さく光るものを1人ひとりが拾って磨いて、観光のタネにしてください」(佐藤和志さん)、「同じものでも説明の仕方で価値が上がり、評価も変わる。方言は強い武器だから、ぜひ生かして」「高いポテンシャル秘めた地域で観光に携わることが楽しいし、うれしい」(佐藤大介さん)、「ポイントごとにおもてなしの達人を配置して。いくつか連携できれば、自分の得意な部分で貢献できるはず」(柳沢さん)と、今後につながる大きなヒントと力強いエールをいただきました。

 コーディネーターの角田さんが、「今日聞いた話をコピーして、自分のものに」「仕事が楽しいというのが原点」「いかに連携できるかが勝負。最初から大きなつながりを求めないで、まずは2人から連携して動き始めること」とまとめて、ディスカッションは終了。佐藤大介さんが「古牧温泉」の名をくり返したことを引き合いに、「これからは“奥津軽”を連呼しよう!」と言うと、参加者から笑いと拍手が起こり、和やかな雰囲気の中で閉会となりました。


 語り口は穏やかだったり、パワフルだったり、四者四様でしたが、大きなエネルギーに圧倒され、あっという間の2時間半でした。参加者のみなさんも、多くのヒントと活力を受け取ってそれぞれの持ち場に帰られたことでしょう。その力が集まりつながって、奥津軽の未来の扉が開かれる日が楽しみです。

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